Tuesday, July 10, 2012
レーザーの活用
レーザーはその優れた特性のために非常に広範囲に利用されている。
(1)基礎科学分野の発展に大きな影響を与えた。まず非線形光学nonlinear opticsという新しい学問分野を生み出した。これにより、入射光強度に比例する吸収、発光などの通常の現象のほかに、入射光強度に比例しないさまざまな非線形現象が発見された。たとえば入射光強度の2乗、3乗に比例する場合には、それぞれ入射光の2倍、3倍の周波数の光が発生する現象がわかりやすい例である。非線形光学は物質のもつ新しい特性、機能の開拓や種々の新しい分光法の開発を可能にした。次にレーザーを光源に用いると超高分解能分光や超高感度分光が可能となり、原子、物質の詳しい構造が解明できる。原子、分子、固体で選択的に特別な電子状態を励起できるため、その状態の構造・特性やエネルギー緩和機構、化学反応のミクロな機構などが調べられる。レーザー分光により原子の運動を事実上止めることもできる(レーザー冷却という)。この静止原子によりさまざまな新しい現象(たとえば原子気体のボース‐アインシュタイン凝縮など)の研究が可能になった。さらに超短時間光パルスを用いると物理、化学、生物現象で超高速時間変化の知見が得られるので、微視的レベルでの現象の解明に役だっている。最後に、レーザー自身と前記の分野を総合した新しい学問分野を量子光学とよぶ。最近のこの分野の進歩として、量子力学の基礎にかかわる種々の現象検証とその応用の研究があげられる。すなわち、それぞれ位相スクイーズ(圧搾)状態の発生と検出などと、量子暗号法、量子テレポーテーション、量子計算機である。
超高分解能分光の応用としてレーザーによるウランなどの同位体分離ができる。ほかに、ラマン散乱のようなレーザー光散乱分光法が普及している。物質の分析に、すなわちそれぞれの固体が示す固有な特性を担う素励起を解明するのに威力を発揮している。レーザーはまた長さの標準にも使われるし、重力加速度の精密測定や相対論の検証にも使われている。
(2)レーザーの実用的応用も多種多様である。レーザー光の優れた単色性、指向性を利用し種々の精密測定ができる。距離、位置、変位、速度などを高精度に測るのに利用される。測距には時間幅の狭いパルス光を飛ばし反射して戻るまでの時間を測るレーザーレーダーがある。地球と月の正確な距離、人工衛星を利用した地球の形の精密な決定、大陸間の距離の精密測定、あるいは気象用として雲の高さの測定など多くの例がある。
光の干渉を利用して機械系の微小変位、変動を光の波長の精度で測ることや、マイクロメートル以下の粒子の径の精密測定、地殻の変動測定、たとえば地震の予知用などにも利用されている。照準としての応用もある。トンネルをまっすぐに掘る場合、荷電粒子用の加速器の軌道を精度よくつくる場合、また長野県野辺山(のべやま)の直径45メートルの電波望遠鏡で多くのパネル板を正確に並べる場合などに用いられている。ドップラー効果を利用して飛行粒子、物体の速度を正確に測るレーザードップラー計も実用化されている。
レーザーにより人体の血流も測ることができる。レーザーによる測定は一般に無接触なため、振動部分、高電圧部分、高温部分、人体などで使うのに適する。
環境保全関係では、レーザーを大気中に飛ばして種々の浮遊分子からの散乱光を解析して、それらの種類、濃度分布および位置を調べることができる。レーザーにより温度測定も可能であり、炎や車のエンジンの燃焼温度、含まれる分子の種類、分布も同定できる。
高出力レーザーを集光すると高エネルギー密度になり超高温が得られるので、加工、切断、溶接などに使われる。ダイヤモンド、金属あるいは服地などの穴あけ、切断や超LSIなどの超微細加工、IC上の文字書きなどに使っている。電子ビーム加工法に比べて真空を必要としない利点がある。表面処理(アニーリング)として金属の焼入れや、基板上に蒸着した物質をレーザー照射で融解したうえで、結晶化させ新物質をつくるのにも使われている。医用では剥離(はくり)網膜のつなぎ合わせや、外科手術用のレーザーメスに利用されている。無接触でしかも血液を凝固させる利点がある。医用ではほかにもレーザー内視鏡や血流検査など多くの応用がある。なお、超高温を利用して大出力レーザーによる核融合の研究も進められている。
波動としての応用に光(ひかり)通信がある。光は電磁波として周波数が高いので伝送周波数帯域がマイクロ波に比べてはるかに広くとれ、大量の情報を送ることができる。光ファイバー伝送により国内、大陸間の電話通信網(インターネット、携帯電話網ほか)などの実用化が進んでいる。光源としては半導体レーザーを、大陸間の海底における光増幅器としては光ファイバー中に溶かし込んだユーロピウムイオン(1.55マイクロメートル帯の場合)などを光励起したものを用いている。なお、光ファイバーによる長距離光通信においては、現在のところ、いまだ電波領域におけるようにレーザーのコヒーレンシーを利用するには至っていない。
コヒーレンスがよいことを利用し、新しい情報記録法、ホログラフィーが登場した。通常の写真が光の強度のみを記録するのに対し、物体波の位相の情報も記録する方法で、物体波ともう一つのレーザー光との干渉縞(じま)を記録する。フィルムにレーザーを照射して再生するが、見る角度により像が変わり、三次元的像が再現する。1枚のフィルムに多くの像を同時に記録できるので大量情報記録にも適し広範な応用がある。
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